藤木 庄五郎 氏
株式会社バイオーム 代表取締役
目の前の小さな疑問を、起業のアイデアにつなげる
世界中の生物や環境をビッグデータ化し、生態系の保護を目的として事業を展開するバイオームの藤木さん。幼い頃から釣りが好きで、生物について関心をもっていたという藤木さんに、起業のきっかけと事業にかける想いを伺いました。
生態系を守ることで、儲ける仕組みをつくりたい
私たちバイオームでは、世界中の生物や環境をビッグデータ化し、生態系の保護を目的としたビジネスに取り組んでいます。会社名と同じ「Biome」(バイオーム)というサービスでは、一般の人たちが投稿した動物や植物の写真をAIが解析して、種類や名前を教えてくれるアプリを展開。画像だけでなく、位置情報システムが検知した撮影場所や撮影時間などから、生き物の種類を判定できます。
アプリのユーザーは年々増加しており、正式リリースから2年で38万ダウンロードを突破。2020年春にはJR東日本やJR西日本、そしてJR九州と組んで企画も実施しました。人々が生物と出会うために鉄道を使って移動することで、地域のにぎわいを生む事業としても注目を集めています。
僕は生物多様性や生態系を守ることで、新しいビジネスを作ろうと考えています。今は世界中で環境破壊を防ぐ取り組みが進んでいますよね。ですがそもそも環境破壊の原因というのは、環境を破壊することで人間が儲かる「ビジネス」が成り立っていたからなんです。山を切り崩して木を販売する。山を土地に変えて住宅を建てるなどが、その一例と言えるでしょう。
ですので環境を守るためにも、そしてこれからの地球を守るためにも、僕は環境や生態系の保全活動自体が「ビジネス」になるように事業に取り組みたい。この決意だけは変えずに、これまでサービスを作ってきました。
目の前の小さな疑問と不安が、起業の原点に
2017年に会社を設立したものの、2年ほどは売り上げが全くない日々が続きました。ですが信念と根性を持ち続け、とにかく色々な人と出会って話をしていく中で、次第に応援してくれる企業や仲間が集まってきました。
僕の生物に対する関心の原点は、子ども時代にあります。小さい頃から釣りが好きで、小学生の時は近所の池でよく釣りをしていたんですね。当時はフナ釣りをしていたのですが、一時期からブラックバスばかりが釣れようになって。釣れる魚が急に変わったことが不思議でしたし、同時に不安も感じました。そこで色々な本を読んで調べるようになり、生態系が変わりつつあることを知ったんです。
こうして目の前の小さな疑問や不思議を調べていくと、もっともっと生物について知りたい気持ちが強くなり、将来は生態系を守る仕事をしたいと決意。そのために必要な知識や経験を得ようと、高校時代ではこれから研究したい分野や進学先を決めて、勉強を重ねていきました。
世界中の生物のデータベースをつくる
第一志望の大学に入学した後は生物研究に取り組みながら、「生態系を守るビジネス」をつくるために起業について学ぶ授業にも出席しました。授業では先生から厳しい意見を頂戴することが多かったものの、その度に改善をして、最終的には最優秀賞を受賞することができました。当時のアイデアが基になって、今のビジネスが形作られていきました。
在学中の出来事で特に印象に残っているのは、フィールドワークで訪れたマレーシアのボルネオ島のジャングルでのこと。植物を記録する現地調査を進めていたところ、すさまじい勢いで森林破壊が進んでいる状況を目の当たりにしたんです。
ボルネオ島は本来であれば生態系がすごく豊かな地域で、樹高70メートルの巨木が立ち並ぶ光景が広がっています。ですが360度地平線まで伐採され尽くした熱帯林の跡地を見て、「このままでは地球がボロボロになっていく」と感じ、「何か行動しなくてはいけない」と強く思うようになりました。
現在私たちは日本で事業を展開していますが、これからは海外にも活動の幅を広げていきたいと考えています。世界中の生物のデータベースを作りたいですね。
僕の場合は小さい頃に感じた素朴な疑問と、大学在学中の出来事が起業の原点になりました。これからも「生態系保護をビジネスにする」という信念を羅針盤にして、全力で取り組んでいきたいと思います。
高校時代のわたし
ホッケー部の活動と大学受験に向けた勉強に励んでいました。「環境のプロになりたい」と決めた後は、そのために必要な知識と経験を得られる大学を探して、受験勉強に取り組んでいましたね。
プロフィール
株式会社バイオーム
代表取締役 藤木 庄五郎 氏
大阪府出身。京都大学在学中、熱帯ボルネオ島にて2年以上キャンプ生活をしながら、衛星画像解析を用いた生物多様性可視化技術を開発。2017年3月京都大学大学院博士号(農学)取得。2017年5月バイオームを設立、代表取締役就任。